美術館に展示(注1)してあるものに答案は一つもない。その作品をどう観るかはまったくの自由だ。
もちろん、その作品を制作したアーティストの意図は存在する。しかし、それは決してただ一つの答案ではない。作者も考えていなかったような見方、読み方ができることが芸術作品の魅力(みりょく)なのだ。優れた作品は作者の意図を軽軽々を超えて、観客の心のなかで多様な気づきを生み出していく。多様な解釈(かいしゃく)ができることは、優れた美術作品の条件だと言ってもいい。
しかし、日本人は、この「答えがない」ことが苦手なのだ。「美術が難しい」「絵がわからない」という声をよく聞くのは、多くの日本人が美術や絵の見方に「正確」があると思っているからである。欧米ではこうした声は聞かれない。「美術は好きじゃない」「絵には興味ない」という人はいる。しかし、「わからない」ものだと思っている人はあまりないのではないかと思う。
ただし、「絵がわからない」と当惑(とうわく)(注記2)気味につぶやくのは大人たちだけだ。子供はそんなことは言わない。
美術館で子供たちは、それぞれのやり方で作品を受け止める。(中略)
面白いと思えばハマる(注記3)。思わなければ忘れてしまう。子供たちと美術の最初の出会いはそれでいいのだと思う。
(衰豊『超(集客力)革命―人気美術館が知っているお客の呼び方』による)
(注記1)展示(てんじ)する:並べて見せる
(注記2)当惑(とうわく)気味につぶやく:困ったように小声で言う
(注記3)ハマる:ここでは、夢中になる
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